賃貸借契約時の初期費用明細によく見られるルームクリーニングと鍵交換。昨今は多くの物件で、契約書の特約事項欄にその金額が明示されています。
国土交通省「原状回復にめぐるトラブルとガイドライン」修繕分担表では
ガイドラインP.25 (PDF)
- 専門業者による全体のハウスクリーニング(賃借人が通常の清掃を実施している場合)
- 鍵の取替え(破損、鍵紛失のない場合)
以上は貸主負担。
本来は貸主である大家さんが、ルームクリーニング代と鍵交換代は負担しなければなりません。ところが、借り主負担とする物件が多いのが現状です。
「原状回復にめぐるトラブルとガイドライン」は法的な強制力はありませんが、現在は原状回復の考え方の指針となっています。
ルームクリーニング代と鍵交換代を借主へ請求することは、ガイドラインに反することもあり、借主負担とする場合は、必ず賃貸借契約書の特約事項に明記します。
この記事では、賃貸のトラブルに多いルームクリーニング代と鍵交代についてもう少し詳しく書いていきます。
ルームクリーニング代の請求
ルームクリーニング代の請求は、すべてがガイドラインに反するわけではありません。
請求が有効な条件(判例) ガイドラインP.45 (PDF)
退去時のルームクリーニング代とは、本来は通常求められる清掃の費用負担。
賃貸借契約書の特約事項または重要事項説明書を確認してください。
「ルームクリーニング代は借主負担」の記載がなく、請求された場合は、通常損耗の原状回復費請求と同様に不当です。ガイドラインを以て、貸主負担を主張できます。ただし、通常の清掃を実施している場合に限ります。
”通常の清掃”?
気になる方はガイドラインをじっくりと読んでください。
通常の清掃を実施しても、特約でルームクリーニング代(正当な金額)が明示されていれば、退去時には必ず請求されます。
現実、汚れたまま退去される方が殆どです。
ルームクリーニング代の明細
契約時にルームクリーニング代が不明な物件もあります。退去時でないと確定できないのも一理あります。
とは言え、やっぱり費用が気になる場合は、おおよその目安だけでも確認するのがお薦めです。
退去時には費用明細も受け取り、しっかりと内容を確認してください。
参考
某物件の賃貸借契約時に添付された「ルームクリーニング代算定式」。
ルームクリーニング代=1,200円x床面積㎡+消費税
平米単価1,200円。もちろん、地域によって異なると思います。ご参考までに。
鍵交換代の請求
セキュリティ上、前入居者と同じ鍵を次の入居者へ貸し出す賃貸はありません。入居者が入れ替わるごとに、玄関扉の錠前は交換されます。
この鍵交換に係る費用を、入居者に負担させる貸主が少なくありません。
ルームクリーニング代は通常、敷金から相殺されますが、鍵交換代は契約時に支払うのが一般的です。
ガイドラインでは破損、紛失以外は、鍵交換代を原状回復費として敷金から相殺できません。そのため、貸主は原状回復費(敷金相殺)ではなく、入居時に交換費用を請求します。
鍵交換代に合意できない場合は、賃貸借契約が締結できません。比較的少なくなった室内消毒代の請求も同様の手法です。
ネット上には、ガイドラインを基に「鍵交換代を値切った」などの書き込みが見られますが、ガイドラインはあくまでも退去時の負担です。
貸主からすると、人気のある物件は別の方に貸せばよいだけです。書き込みを真に受け、強気の交渉をするのはお勧めできません。
注意。鍵交換代は、錠前の数で変わる物件があります。例えば、住戸の玄関扉に2個の鍵前(ツーロック)があれば、交換代は2倍の金額になります。
持ち歩くのが「鍵」
鍵交換代のない物件
鍵交換代が必要な賃貸の多くは、新品の錠前に交換しています。
交換代を請求しない賃貸は、一般的に、鍵前を別の部屋または別の管理物件とローテーションしています。例えば301号室の錠前が数年後は、502号室に使われてたりましす。
入居時の鍵受け取りで、中古の鍵を渡された場合はこのケースです。
特約事項と民法改正
以前は、ルームクリーニング代は補修費用に合わせ、ざっくりと敷金から相殺されていました。負担も費用も賃貸借契約書には明記されていません。借り主にとっては不利な状況でした。
ガイドラインの制定により、通常損耗の原状回復免除や補修費用の負担割合が明確になりました。それでも、貸主は今までのような賃貸経営が難しくなるため、法に抵触しない限り(?)特約事項として借り主に負担を求めています。
2017年5月「民法の一部を改正する法案」が成立。
民法の改正により敷金や原状回復についての基本的なルールが明確になります。施行は2020年4月1日。原状回復ルールが法律として適用されます。
施行日に向け、何が変わり何が変わらないのか。注目したいと思います。