デザイナーズマンションの代名詞とも言えるコンクリート打ち放し。
よく聞かれるのが
「冬は寒くないですか?夏は暑くないですか?」
住宅のデメリットとしては間違っていませんが、マンションは戸建てと違い屋根と外壁を共有しています。
最上階部屋以外は外気に面する屋根がなく、角部屋以外の外壁は二面しかありません。隣接する住戸は空間であり、最上級の断熱層でもあります。戸建てに比べ、外気に面する壁が明らかに少ないのです。
見た目はコンクリート打ち放しでも、マンションに限れば、断熱材が使われていることがほとんどです。
賃貸マンションの多くは内断熱工法の壁
コンクリート造に限らず、断熱は外断熱が理想です。
コスト上の理由で、賃貸マンションの外壁は内断熱工法が一般的。
内断熱工法の建物は、外壁の室内側にある断熱材上に、石膏ボードを張り(GL工法)、クロスなどで仕上げます。つまり、この部分がコンクリートのまま(打ち放し仕上げ)の建物は、外断熱工法でなければ断熱材のない建物です。
外部に面しない壁と天井は断熱性に影響なし
この場合は、おそらく外壁面に断熱材のあるマンション。なので、総クロス貼りのマンションと断熱性では、あまり違いがありません。
因みに、外壁面よりガラス面の方が遥かに断熱性が劣ります。
打ち放しは仕上げがない分工事費が安くなる?
コンクリート打ち放しはタイルやクロスなどの仕上げがない分、仕上げ材で粗を隠せず施工精度が必要。コンクリート型枠の組み方、型枠の転用回数、表面の塗装仕上げも重要です。
仕上げ材がないローコストを目的とすると、打ち放しはデザイナーズと程遠い結果になります。
コンクリート型枠
コンクリート打ち放し仕上げは、型枠に塗装合板(パネコート)を使用します。片面に塗装された合板はコンクリートの表面を平滑にします。
コンクリートの仕上がり面には、合板の継ぎ目とPコン跡が残ります。これらを整然と配置できるかが、表面の精度と同様に重要となります。
型枠の組み立てには、熟練の技が必要とされます。
※片面がウレタン塗装された型枠用合板。グレー色もあります。
型枠の転用
丁寧に施工されたコンクリート打ち放し表面は平滑で光沢があり、正に仕上げ面。塗装合板が作り出す表面です。
マンションは上下階が同じ造りであることが多く、工事現場ではコンクリート型枠の転用が行われます。一度使われた塗装合板は表面が荒れ、転用の度、仕上げ面に影響します。階毎に打ち放し表面が微妙に異なるのはこのためです。
転用を無くす、減らせば、建築コストは確実に上がります。
コンクリートの表面塗装
外壁の打ち放しコンクリートは、表面にクリアー塗装がされています。
比較的安価なウレタン塗装から高価な高耐久のフッ素塗料など、塗装で外壁の劣化を防ぐ必要があります。
透明で見えないだけで、打ち放し外壁はタイル張りと同様に仕上げにコストが掛かっています。
コンクリート打ち放しはパネル割&セパ割をチェック
「打ち放し仕上げ」は、型枠合板の割付がとても重要です。型枠材は意匠的に900mmx1800mm(3×6板)の横使いが最も美しい。
開口部や凹凸のない大きな壁面は、コンクリート打ち放しの醍醐味です。
施工性を優先した多くの物件では600mmx1800mm(2×6板)が使われ、見た目が劣ります。パネル割(型枠跡)とセパ割(Pコン跡)を見れば、設計士の打ち放しに対する拘りを見ることができます。
型枠跡の水平垂直ラインと等間隔に配置されたPコン跡は、打ち放し仕上げの重要な要素。これを実現させるのは、設計図面ではなく職人の手間です。施工前の入念な打ち合わせと的確な指示が必要となります。
職人さんの協力なくして、美しいコンクリート打ち放しは実現できないのです。
1枚の板に対してPコン6
1枚の板に対してPコン8
1枚の板に対してPコン8
1枚の板に対してPコン4
「3×6板の横使い」がやっぱり美しい。
でも、賃貸では滅多にお目にかかれません。縦使いのパネルに比べ、横使いのパネルは施工性が悪いからです。
Pコン跡
Pコン跡は通常モルタル詰めを行います。室内に限り、コンクリート打ち放し壁は敢えてそのままにするケースがあります。
モルタルで埋められていないPコン跡はネジが露出します。このネジ山を利用して、フックを取り付けることができます。
フック利用で最も安価なのはPコン。単品では買えないのが難点です。ネジ径W5/16の高ナットを使う手もあります。
Pコン用のフックも市販されています。ステンレス製です。
クロムメッキもあります
巨匠・安藤忠雄の打ち放しコンクリート壁
打ち放しコンクリートは水平・垂直ラインが生命線
一般的に塗装仕上げのコンクリート造建築物は、角に面を取ります。型枠の出隅に三角または四角材を入れ、直角が消されています。これは、施工精度を誤魔化すため。水平・垂直な1本のラインを真っ直ぐに施工するには、施工精度が求められるからです。
コンクリート打ち放し建築は、角が直角(ピン角)が絶対的に美しい。
型枠跡のコンクリート表面の美しさを求める同様、出隅の綺麗な水平・垂直ラインはコンクリート打ち放し仕上げの重要な要素になります。
まとめ
コンクリート打ち放し建築と言えば、建築家の安藤忠雄氏を真っ先に思い浮かべる方が多いと思います。
巷には、安藤氏を模倣したコンクリート打ち放し建築が多いです。
住みやすさ、使いやすさ、メンテナンスのしやすさを取り入れると、どれも中途半端なANDO風建築になります。
また、打ち放し建築の経験がない業者や設計士が携わった建築物、建築予算が少ない(ローコスト目的)と思われるコンクリート打ち放しは、単なる仕上げのない建物にしか見えません。
美しい打ち放し建築は、仕上げ材がある建物より何倍も造るのが大変なんです。
省エネルギー対策
2020年までに、すべての新築住宅について省エネ基準の適合が義務付けられます。
※義務化は見送りに
参考:国土交通省住宅局「省エネルギー対策・・・」
現在は300㎡未満の建物は努力義務ですが、いずれは断熱材のないコンクリート打ち放し建築は造れなくなる?かもしれません。